プロレスに華を添える「ヒール」。ヒールとは、いわゆる悪役レスラーです。『アンパンマン』でいう「バイキンマン」。ポケモンでいう「ロケット団」。悪い奴らですがどこか憎めない、なぜかどんな物語にも登場してくる、そんな人たちです。
管理人はヒールが大好きです。そんな管理人もよく「ヒールがうざい」というSNS投稿を目にします。もちろん鑑賞スタイルは人それぞれ。でもせっかくなら、その「うざい」気持ちを少しでも和らげて、楽しい試合が増えたら嬉しいですよね。今日の記事は、そんな思いを目標にしています。
プロレスの反則行為について詳しくまとめました
プロレスのヒールが働く悪事は「プロレスにおける反則とは?基本的な定義から、楽しみ方までまとめました。」にまとめています。反則の種類や、反則が許される理由を知りたい人はまずこちらの記事をご覧ください!
初心者でもわかる、プロレスの「ヒール」の定義
まずは、ヒールの定義からお話しします。もう大体知っているよ!というみなさんはスルーでも大丈夫です!
「ヒール」の定義
ヒール(Heel)とは、プロレスのギミックの1つです。悪役・悪人として振る舞うプロレスラーのことを指します。
ヒールレスラーは、プロレスのルールや人道に反したラフな戦い方を採用し、「ベビーフェイス」と呼ばれる善玉プロレスラーを負けに追いやろうとします。
ヒールは、入場時も少しおどろおどろしいテーマ曲をかけたり、黒っぽい衣装をまとっていたりすることが多く、初見でもわかりやすいのが嬉しいです。
ヒールのプロレスラーが悪事を働く目的とは
ヒールレスラーを見ていると、「悪いことばっかりやっていて目的をないがしろにしている!」と思ってしまいそうですが、彼らにも目的があります。
それは、「自分が一番強い」と人に見せつけることです。
プロレスのルールには穴が多いです。それの穴を上手く利用して勝つことで「プロレスのルール内で」一番強いことを見せつけてくれるんです。
たとえば、プロレスではレフェリーの目を盗んで悪事を働けば、誰が見ていようが反則になりません。仲間(セコンド)にレフェリーに話しかけさせ死角を作り、隙を見て大反則・ローブロー(局部への攻撃)…なんてことも起こります。
プロレスのルールに関しては、「初心者が抑えておきたい「プロレスの基本ルール」|これを知れば「ストーリー」を追える!」にまとめましたのでぜひご覧ください!
ヒールは、プロレスのルールを一番よく知っていなければなりません。レフェリーに反則を取られないギリギリを攻めるのが、大きな仕事です。
プロレスのヒールは「うざい」?
プロレスファンからヒールが言われがちなのが、「うざい」「こんな勝利は認めたくない」。
プロレスのヒールの勝利には「観客にフラストレーションを溜めて、ベビーの勝利のカタストロフィを爆発的に盛り上げる」という重要な役割があるので、ある意味この反応は正しいというわけです。しかし、あまりにヒールの勝利が続くと、なんだか現地まで見にいくのも億劫になってしまいますよね。
確かに、真っ当に戦うベビーに対し、悪虐の限りを尽くしたり、繰り返し反則してくるのはちょっとムカついちゃいます。そのうざいヒールとの試合をどうすれば楽しめるのか?フラストレーションを貯める以外の役割もあるかもしれません。少し考えてみましょう。
ヒールはプロレスの物語を表現している
悪く言えば、ヒールは非常に自分本位・自分のユニット本位な存在。
ユニットとは?
プロレスラーは、自分の所属する団体の中で、ユニットに所属している場合が多いです。ルフィがプロレスラーなら「ワンピースレスリング株式会社」という団体の「麦わら軍」のユニット所属でしょう。
しかしヒールの肩を持つのであれば、プロレスは常に自分ひとりでの戦いです。誰もが優勝やベルト保持を何より目指しているはずです。だから「自分本位」であるのは、どこまでも素直な証拠とも言えます。
プロレスにとって、興行の売上や集客が大事なのは当たり前です。しかし、そんなことを言ってしまうと夢がない…。
ヒールレスターのように、「客の評価なんて関係ない。なぜなら自分の目的は勝利だから。勝利のためならなんだってするし、盛り上がりなんて気にしない。」と、「大人の事情」を思いっきり無視する存在がいることで、プロレスの夢物語のリアリティが高まるんです。
ヒールはプロレスの多様性を表現している
プロレスは、エンタメとスポーツが融合したコンテンツです。
管理人は、プロレスとスポーツの一番の違いを「持って生まれた才能から開放されているところ」だと思っています。
普通の格闘技であれば、〇〇kg級と細かく分かれています。
プロレスは、100kg以下の「ジュニアヘビー」と100kg以上の「ヘビー」に分かれているのみ。しかも、その階級を超えた試合もかなり組まれます。
プロレスなら、80kgのプロレスラーが130kgの巨漢プロレスラーに勝つことも普通にありえるんです。そんなこと、普通だったら起こらないからこそ、階級分けされているんです。
さらにプロレスを独自の存在に昇華しているのが、ヒールの存在です。
ヒールは、セコンド介入も凶器攻撃も惜しまず使って、格上の相手や華のある相手にも勝つことがあります。
どんなに努力しても、持って生まれた体格・センスで勝てないことがあるのは、人生よくあることです。
でもプロレスなら、頭や仲間を使って目的を達成できます。努力ではどうしようもない壁も、環境を使って超えることができます。
そんな多様な勝ち方を教えてくれるのがヒールです。
「ひとりで戦わないからズルい」は、ヒールによく言われがちなセリフです。しかし裏返せば、ひとりじゃ勝てないところでも諦めなくて良い、と私たちに教えてくれるのがプロレスです。
邪道でも突き進む、そんな泥臭い生き方に勇気をもらっている人も、きっといるはずです。
ヒールは「悪の美学」を教えてくれる
最近、「悪役」側に着目したコンテンツが人気を博しています。
大ヒットした映画『ジョーカー』や、ディズニーの悪役に焦点を当てたゲームアプリ『ツイステッドワンダーランド』など、枚挙にいとまがありません。
それだけ現代では、「カッコイイ」が「強くて清く正しい」だけじゃないことに注目が集まっているということです。
プロレスも例に漏れません。
「そんなに清く正しくなんて、なかなかいられないよ」と少しくさった気持ちになってしまうのはよくあることです。環境にも才能にも頭脳に恵まれて、真っ直ぐ道徳を重んじて生きるのは大事だが、それだけじゃ息が詰まってしまいます。
プロレスでは、堂々とルールに反し、他人からの評判なんて気にせずに我が道を突っ走る選手がたくさんいます。
そんなあり方に勇気をもらっている観客も、結構いるのではないでしょうか。
「努力や華を踏み躙られる不快感」の裏には、「キラキラした王道をねじ伏せて歩く邪道によって勇気づけられるギミック」もあったりすると思っています。
初心者が知っておきたいヒールの種類
ヒールには、いろんなタイプがいます。その全タイプを網羅しようとしてしまうと、逆にヒールの受け取り方を制限してしまう気もするので、知っておけば混乱しない2種類のヒールの属性だけお伝えします。
勧善懲悪を表現するヒール
いわゆる王道のヒールです。先ほどお伝えしたように「観客にフラストレーションを溜めて、ベビーの勝利のカタストロフィを爆発的に盛り上げる」という重要な役割を持っています。
このヒールは、プロレスが勃興した時期からずっと存在しています。悲しい話ですが、当時は「自国のレスラーがベビー、外国人選手のレスラーがヒール」という単純で差別的な構造でした。
敗戦国だった日本にとって、日本人レスラーが大柄なアメリカ出身のレスラーを倒す構造は、一種のケア的な性格も持っていたのでしょう。
現在は、人種を問わずベビーとヒールが入り乱れており、ヒールを「単純な悪」として描くことも減っているような印象です。
「アンチヒーロー」としてのヒールレスラーの登場
アンチヒーローは、ただベビーとの対比表現として出てくるのではありません。「清く正しく強い」ヒーローに唾を吐きかけるヒーローです。
自分の目的のためなら非合法な戦い方も採用するが、必要以上に露悪的な態度を取るわけではない。少しスレたアンチヒーローは、スタイリッシュでクールな印象を与えてくれます。
今現在、新日本プロレスで一番有名なアンチヒーローは、「内藤哲也」選手でしょう。
彼はかつて王者になった時も、王者のベルトの価値を否定しました。なんの意味もないと苦言を呈しました。
先ほど「ヒールはプロレス内の勝利の価値を表現する」とお伝えしましたが、なんと内藤哲也は王者のベルトをぶん投げて破壊しようとします。
みんなが無条件に「良い」と思っている価値観を疑い、ヒールが一生懸命守っていたものの真実を暴く姿は、ちょっと斜に構えた姿に見えてとても格好いいですよね。「カリスマ」という表現がピッタリでしょう。まさに彼の二つ名は「制御不能のカリスマ」。
先ほどお見せしたビデオでは、対戦相手は圧倒的ベビー「棚橋弘至」選手です。どれだけアンチヒーローに唾を吐きかけられてもベルトの価値を守り続ける…そんな姿が余計に格好良く見えます。
ヒールレスラーのプロレスがつまらないと思ったら
ヒールレスラーのプロレスがつまらないと思ったら、ガンガンブーイングしましょう!…と言いたいところですが、なかなかブーイングができないご時世が続いています。
どうしてもモヤモヤの解決がその場でできず、イライラしてしまうこともあると思います。そんな時は、もちろん少しプロレスから離れるのも悪くありません。
でも嫌いなもののために好きなものが見られなくなるのもちょっともったいないですよね。だから、ちょっと見方を変えて、嫌いなものでも楽しめるようにしてみるのも楽しいかもしれません。
「いっつもローブロー(金的)で終わるからつまらない!」と思うこともあるかもしれません。そんな時は、ローブローに至るまで、どんな風にストーリーを組み立てているのかに注目してみましょう。もちろん最初からローブローなんて決まりません。どこでレフェリーの目を盗むのか、どうすれば対戦相手の隙を崩せるのか、その組み立て方に注目です。
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